これまで数多くの国を旅してきた。仕事でロケが目的のケース。プライベートで行ってみたケース。ダイビングでひたすら海の中を潜ったケース等々。旅の基本は自らの足で歩き、さまよう事。そしてその土地の空気を胸いっぱい吸い、その匂いにどっぷりと全身を浸す事と決め、プライベートでは余り熱心に写真は撮らなかった。カメラを持たない方がリラックスして、シーンを眼に焼き付け、右脳で切り取れる。その方が気ままな旅らしい。
写真を撮るという事は、全身をひとつの感覚機械に化え、イメージを左脳で思考し、機械の眼で切り取る訳だから。それに1週間ぐらいの旅では、そうそうカメラをいじっている暇はない。そして、感じる事は常に一瞬のひらめきな訳で、自然の風景は目まぐるしく変化していく。そのチャンスをカメラいじりで逃したくない(もちろん仕事の時は別として)。それでも膨大な量のフィルムが、旅の気憶とともに残った。
ひとつの土地にじっくり腰をおろした記録は、第2部の「無人島生活」、そして今後にゆだねるとして、ここではその無目的なスナップ写真を、「碧い気憶」というテーマで9つの国に絞って掲載してみます。
 
1 KENYA  
ケニヤン・ブルー
気憶も色のように風化されていくのだろうか。
風と陽と土は変わらない。
木と顔料のデリケートな質感。
人工的な色は、
いずれ風化され土に返っていく。
男の名は忘れてしまったが、
さらされた物にしか出せない
淡いターコイズブルーのTシャツだけが、
記憶の片隅に残っている。


ケニアのとある村にて
2 GREECE  
グリース・ブルー
真冬のギリシャに、
深いエーゲブルーの
痕跡はあるのだろうか。
ふと入った裏ぶれたBAR。
無愛想なオヤジ、殺風景な店内。
ただ、入口のドアのアンニュイな青と、
カウンターに座った時の放心したような
妙な居心地の良さが、
不思議と印象に残っている。


ギリシャのとあるBARにて
3 TURKEY  
ターキッシュ・ブルー
ブルーモスクに代表されるように、
トルコは「青の文化」と聞いていた。
青が敬謙の色だからだろうか。
それともトルコ石の青からきているのか…。
白いやや赤みを帯びた石の台地。
奇抜な岩の造形。
土地にある色でないとしたら、
人々の心の中にある色なのだろうか。
モスクの中のステンドグラス。
その基調色であるコバルトブルーが、
ずっと記憶の底に眠っている。


トルコのとある協会にて
4 MEXICO  
メキシカン・ブルー
土地の色とは、どこまで客観性を
持ちえるのだろう。
赤茶けた大地と、
乾いたサボテンだらけの荒野。
そして眼を刺すような青空。
ここまでその土地の色が
シンプルである例は他にない。
象徴としてのアースレッド。
そのザラッとした顔料で塗りたくられた
壁の隙間から見たメキシカンブルーが、
いつまでも記憶の淵に染み付いている。


バハのとある街角にて
5 CHINA  
チャイニーズ・ブルー
青と呼べるものに境目はあるのだろうか。
夜遅くまで歩き回った中国の小さな街は、
どんよりと深い霧に包まれていた。
ケバケバしい原色の看板も、
鉛のような川に流されていくかのようだ。
そのどこまでも暗灰色の川に、
青の痕跡は見つけられるのだろうか。
ただ、その霧におおわれ、
ひとつにまとまっていた街は、
わたしの中では、ギリギリに青だった。


中国のとある川下りにて
6 HONGKONG  
ホンコン・ブルー
なぜ青をまとう生物は、
そのどれもが神秘的なのだろう・・・
東京以上の灰色の街。
これでもかとコンクリートを積み上げた、
廃墟のような建物の群。
その狭間のいかにも人工的に
創られた公園で、
ふと見かけた一羽の鳥。
その鮮やかな青の輝きだけが、
不思議なアンバランスさで、
記憶の残像として残っている。


香港のとある公園にて
7 BALI  
バリズ・ブルー
青と緑の間に境界線はあるのだろうか。
ふと立ち寄った湖は、
バリの海の底のように深く、
青と緑の間をさまよっていた。
それは、大地の養分や文化という情念を
全て溶かし込んだかのように。
青と緑の狭間のような深緑(ふかみどり)。
はるか昔、少年の頃に持っていた、
懐かしい色鉛筆の色。
そんな事を思い出させてくれていた。


バリのとある湖にて
8 SUMBAWA  
インドネシアン・ブルー
夕暮れにも土地の色があるのだろうか。
暑苦しい不思議な青が街を包み込む。
静寂の中に行きかう馬車。
馬の息、ひづめの音。
この世とも夜ともつかない一瞬の色彩に
旅のダイゴ味がある。
屋台で何を売っていたかは定かではないが、
その青い輪郭だけは、
記憶の奥底に沈んでいる。



インドネシアのある村にて
9 MALDIVES.  
モルディビアン・ブルー
海の中にも土地の色彩があるのだろうか。
インクを溶かしたような
「青い透明度」はミクロネシア。
逆にサイダーのような
「白い透明度」のカリブ海。
「青と緑の間」をさまようアジアの海。
「黒い透明度」だった、イリヤンジャヤの彼方。
そしてここは、その中間の「水色の透明度」。
ただ夕暮れの朱と交じりあう水面の色は、
万国共通。
後はその日の雲の出方しだいだ。
爽やかな黄昏に乾杯。


モルディブのとあるリゾートにて