メキシコのビールと言えばコロナだった。その紺と白のラベルが、透明なビンに透けて見えるこのビールの黄によく映え、シンプルながら毅然とした主張をもっていた。特異なボトルである。他のボトルは、例えば紫外線を遮断する目的なのか、茶か緑色をしている(ハイネケンの緑もかなり主張はある)…が、ことコロナだけは透明で地の色を浮き立たせ、「ビールは黄色なんだよ」と語る。また、ライムを絞って中に入れラッパ飲みするスタイルも、ビンのライトな感覚とよくマッチしていた。 某年10月、我々はラパスのはるか沖合サンホセ島の近く、サンフランシスキートの島の近くに停泊していた。彼方にバハカリフォルニア半島がうっすらと見え、赤茶けたサボテンだけの島と海面の青のおりなすシュールで力強い風景にしばし魅入っていた。グランドキャニオンにどんどん海水が溜まり、陸地がなくなりかけているウォーターワールド…そんな地から受けるインスピレーションを楽しみながら、その場にいる実感をコロナと共にした。 商品デザインが、その土地の旅情を心地よく増幅させる効果を久しぶりに感じる。アメリカの内陸部で飲むバドワイザー、あるいはハワイのコンドミニアムのラナイで飲むクアーズのように、その地にマッチする。メキシコには、テカテもドスエキスもパシフィコもあるが、ことここバハでは、コロナの風景に及ぶべくもない。毎日その日のダイブが終わった後、ライムを絞りビンに入れ、ラッパ飲みする。ビールにライム(軽くクセのないメキシカンビールだから合うのだろうが)、たぶんそんな飲み方が似合うのはコロナだけだろう。太陽にさらされ、体から奪われた熱を補給し、それを再度冷やす船上での至福の一杯。ビールを通してメキシコの匂いを身にまとうわけだ。 コロナ…太陽のコロナにひっかけてあるのかは知るべくもないが、太陽の国メキシコ、素朴であっけらかんとした国のビールの名に相応しい。ボトルの黄色はたぶん太陽を語っていたのかもしれない。 船上の生活(4泊5日のクルーズ)は、ハードながら、何ものにも代え難い優美さがある。まだ陽の力も弱く清々しい朝陽を眺めながらのコーヒータイム、雲ひとつない太陽の国の灼熱の日中、過ぎ行く1日を最大限に演出する刻一刻と変わって行く夕陽、そして太陽も地球の裏側に回ってしまし、明日を予感させるゴージャスな夜。まさに太陽の周期と共にあるプリミティブなコロナの生活だ。 ナガスクジラとの遭遇(残念ながら海中では見られなかったけど)があったとしても、大物運に恵まれなかった今回だが、コルテス海には興味をそそられる。ふだん潜りなれているミクロネシアともモルディブとも、はたまたカリブとも違う、まったく異質な生態系だ。見慣れている魚はほとんどいず、地上の砂漠と呼応するかのようなゴツゴツした景観のなかで、これもまたメキシコの風土に合ったアースカラー系とも言える魚たち。それらの魚を図鑑とともにウオッチングするのは面白い。 今回は大物ねらいの組み立てだったが、コロナの原風景のような素朴な生活のリズムの中で、今度じっくりと小物から大物にいたるまで、観察してみたいと思う。 -----カリフォルニア湾の船上にて |