『BARは空間ではない。そこにあるのは時空間なのだ』とある人が言った。私流に言うなら、できたらそこに、「移りゆくこの星の森羅万象の中に漂い、ちょっとの間、酒という触媒を借りて、時間と空間を結晶化させる…そんな場所」であると付け加えたい。

vol.1 ハーバーナイトにゃハーパーないと
vol.2 風と潮とサンミゲル
vol.3 ゴンザロのマルガリータ
vol.4 コロナの原風景
vol.5 アフタヌーンバーボン



とりあえず幕開けはハーバー12年でいってみよう。この酒とのつきあいは長い。それも私が海外へひんぱんに行くようになってからで、成田では必ず私のバッグに忍び込むことになる。昨今、輸入物の洋酒が手軽に普通の酒屋で買えるようになって、さほど免税店がありがたくなくなった。ただこのハーパー12年だけは、酒屋でダンピングされていないのがミソだ。これだよ、これ。それにやっぱ味。ターキーやグランダッドもいいけど、とにかくこの酒は爽やか。ダイビングで潮からくなった舌に一番マッチするし、バーボンっていうと強いイメージだけど、これはすっきりと純度の高い透明感がある。あと、最悪氷が手にはいらなくとも、ストレートでじゅうぶん軽やかにいけるのもうれしい。

BARは漂流しながらがいい。日常をちょっと離れ、できたら異国の気に入った場所にイカリをおろす。特に南であれば、HARBOR(港・避難所)で行き交う船のマストを見ながらがいい。しばし風の音と波の音を聞き分け、潮の香りと草花の香りが溶け合うのを感じ、そして変化し交ざり合う空の青と陽の朱を見極める。

6年程前の開島当初からJEEP島には行っているのだが、ここの良さは天然自然の遊びのアトラクションスペースってとこかな。それも造られた人工的なものではない、あるがままの自然を残した、ナチュラルさの中にある遊び心をギュッと濃縮した感じ。世界中を旅したけど、こんな所は他にはない。島が大きくなるとモルディブのようになってホテルが建ち一般的だし、小さ過ぎると何もないただの砂州だけになってしまう。プライベート感覚な程よい大きさと、形の良いヤシの木や清潔な白砂と、ぐるりと取り囲む美しいハウスリーフと。この「おあつらえ向き感覚」は希少だ。山の頂上で360°ぐるっと視界が開けたところが好きだが、ここはそれが島でできる。それも泊まれてくつろげるスペースの上で。

私が行くのは満月の頃が多く、陽が沈む頃、東の空から月が昇り雲にかかった様子は、けして都会で見ることのできないシュールなシーンになる。360°のHARBORにかこまれた、月と星と海とヤシのシルエットのムーンライズバー。シャワーを浴びた後、バスタオルにくるまって石のように固まる。全ての瑣末な人間事を離れ、内象的な光を浴び、ルナシーな世界に漂う。時としてキバを剥く自然がゆったりと穏やかになるとき、酒の触媒を借りて、疲れた肉体から純度の高い澄んだ感覚が浮遊する。上を見上げれば、ヤシの葉の隙間から星が見え隠れし、ホタルのように地に降り注ぐ。全てがまとまり完結するシーンていうのはある。

スコッチが北ならバーボンは南だ。ウオッカがさらに北なら、ラムはさらに南だ。
ダイブで行く爽やかな南にはバーボンが似合う。それもサラッと潮風に合うやつが。
やっぱ、ハーバーナイトにゃハーパーないと。

-----ミクロネシアのとある島の砂浜にて